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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和37年(家)771号 審判 1963年8月22日

申立人 目黒幸子(仮名)

相手方 目黒つるこ(仮名) 外一名

主文

被相続人目黒治男の別紙目録記載の遺産をつぎのとおり分割する。

一  別紙目録一(ニ)記載の田を申立人の所有とする。

二  別紙目録一(イ)(ロ)(ハ)(ホ)記載の不動産はすべて相手方等の共有とする。その持分は、各不動産につき、相手方つるこについて、別紙目録一認定取得計算額と()内の特有財産との合計額とした場合相手方忠子については同取得計算額の割合とする。

三  別紙目録二記載の債務は相手方等の負担とし、負担部分は各二分の一とする。

四  申立人は相手方両名に対し、金八、五六七円の支払をせよ。

理由

第一事実

(双方の申立)

申立人は、主文第一項の田または別紙目録一(ニ)記載の田の分割を求めた。相手方等は、正当な分割を求めた。

(申立原因)

一  被相続人目黒治男は昭和三三年一二月一〇日死亡し、相手方つるこは妻、申立人および相手方忠子は養子として同人の遺産を各三分の一宛共同相続した。

二  被相続人の遺産中積極財産については、別紙目録一記載のとおりであるが、その消極財産については知らない。

三  よつて、申立人は現物分割として、主文第一項記載の田または別紙目録一(ニ)の田の分割を求める。

(相手方等の答弁)

一  申立原因一の相続に関する事実は認める。

二  被相続人の遺産中積極財産が申立人主張のとおりであることは認める。しかし、別紙目録消極財産主張欄記載のとおりの負債が残存している。

三  よつて、申立人に対し分割するならば、申立人主張の田のうちからされたい。

(当裁判所の判断)

一  各公文書であるので真正に作成されたものと認められる甲第一から第三号証、申立人、相手方つるこ各審問の結果を総合すると、申立原因一の事実が認められる。したがつて、各人の法定相続分は三分の一宛である。

二  (イ) 各公文書であるので真正に作成されたものと認められる甲第四から第一一号証および申立人、相手方つるこ各審問の結果、当裁判所が職権で蒐集した丙第一から第九号証を総合すると、被相続人目黒治男所有名義の不動産が別紙目録一の積極財産のとおりであること、その負債が別紙目録二の消極財産認定額のとおりであることが認められ、右認定を左右する証拠は存在しない。

(ロ) 甲第一号証、丙第一号証相手方つるこ審問の結果を総合すると、相手方つるこは昭和一五年九月一七日被相続人治男と婚姻し、共に農業を営み、農地開放の結果、当時小作していた別紙目録一(ハ)(ニ)の田所有権を取得するにいたり、また、同(ホ)の田は被相続人治男とともにその耕作者であつた。同(イ)(ロ)は婚姻中治男が相手方つるこの協力のもとに居住用として買受けたものである。相手方つるこは治男の生存中婚姻関係において格別波乱もなく、夫とともに農業に励み、夫が農閑期に日雇人夫をした場合これをたすけ、家事労働をし、内外ともに援助した。申立人は昭和一一年六月二七日治男とその先妻亡サクと養子縁組したが、サクは昭和一五年三月二四日死亡し、治男が前叙のように相手方つること再婚し、申立人も同居していたが、申立人が相手方つるこの反対する者と婚姻し、申立人と別居したことから両者間が不仲となり、昭和三三年八月九日治男と相手方つるこは相手方忠子と養子縁組するにいたり、今日でも申立人、相手方忠子が治男の遺産により農業を営み生計をたてている。

右事実によると、相手方つるこが夫治男とともに耕作に従事していた別紙目録(ハ)(ニ)の田の所有権、同(ホ)の賃借権は両名の共有に属し、その持分は各二分の一とするのが相当であり、同(イ)(ロ)の土地建物は相手方つるこ、夫治男とともに協力して造成した財産であり、その協力による共有持分の割合は被相続人治男が三分の二、相手方つるこが三分の一とするのが相当である。

夫婦の共有財産、協力によつて造成された財産を残して夫が死亡した場合の遺産分割においては、原則として、妻の特有財産は分割の対象とならないから被相続人である夫の特有財産について分割すれば足りる。しかし、その財産が不動産であつてその共有持分の割合の定めがなく、また、具体的に持分の範囲が定められていない場合には、妻の特有財産たる共有部分と夫の遺産たる共有部分とが一体不可分となつているのであるから、夫の遺産たる共有部分の分割は必然的に妻の特有財産たる共有部分の分割を伴なう表裏一体の関係にあり、その意味で、妻の特有財産たる共有部分もまた分割の対象となる。

したがつて、原則として、妻の特有財産部分の現実の分割(妻の相続分を含めて)が問題となるけれども、妻が遺産分割条件として、妻の特有財産たる共有部分を含む不動産全部を、共同相続人の一人に対し法定相続分を限度とする分割にあててもよいと述べることは、実質上、分割を条件とする交換の申出の性質を有するものと考えることができるから、このような場合には、必ずしも、妻の特有財産たる共有部分を含む不動産から夫の遺産部分を現実に分解することなく計算上分離すれば足り、そして、当該不動産全部を遺産分割そのものとして、共同相続人の一人の所有に帰属させることができるものと解するのが相当である。

本件において、被相続人治男の遺産は、結局、別紙目録一認定評価額から相手方つるこの特有財産たる共有部分である同()内記載額を控除した部分であり、また、相手方つるこは本件審判期日において、申立人に分割するならば別紙目録一(ハ)(ニ)の田のうちからされたい旨述べているから、それらの物件は、これを申立人に分割帰属させることが可能である。

(ハ) 当事者双方とも被相続人から生前贈与等特別受益を受けたものは存在せず、また、被相続人の遺言も存在しない。

三  相続分の計算をするにあたりすべき遺産の評価の基準時期は、原則的にいえば、民法九〇三条、九〇四条から明らかなように相続開始時である。そして、分割審判時までに値上りしたことを考慮するためには、相続分計算の結果得られた数値をもつて審判時の評価額に按分比例して増加させた額を、現実の分割評価額と定めるのが相当である。

しかしながら、共同相続人の全員に、相続分計算を及ぼす特別受益が存在しない場合には、上述の方法で算定した場合と、遺産の審判時の評価額につき直接相続分を計算した場合と全く同一であるから、この場合には遺産の評価の基準時期は分割審判時であるとしてよいと解されるこのように解することは、少くとも、相続開始時の評価を鑑定させる必要がなくなる点で実益がある。

したがつて本件では、審判時の評価額を基準とすることができ、その額は鑑定人芝軒伊助の鑑定の結果によれば、別紙目録一の認定評価額のとおりであることが認められる。

四  (イ) 以上の説示にしたがい計算された各人の遺産分割取得額は、積極財産については別紙目録一認定のとおり金一、二五九、七六六円、消極財産については、同二認定のとおり金六八、三三三円である。

(ロ) しかし、被相続人の債務は主として被相続人の病臥中の医療費、生活費等のため知人から借受けたものであり、相手方等が債務者となる場合には免除等も考えられ有利であるが、申立人もその債務者の一人となるときは債権者を無用に刺戟し相続人全員が不利となる虞れがあることが、当裁判所調査官の調査結果、川井又三審問の結果を総合して認められる。したがつて、債務は相手方つるこおよび同居の相手方忠子の負担と定め、申立人負担部分については申立人が相手方等両名に支払うこととするのが妥当である。

(ハ) 遺産分割は、すべての遺産を現実に共同相続人に対し、その相続分に応じて分割してしまわなければならないものではなく、申立人と相手方等との間等対立する共同相続人のグループの取得する財産の種類数量を定め、その一つのグループの共同相続人同志につき法定相続分に応じ計算された各人の取得額に対応する持分を有する共有と定めることも可能であり、その一つのグループの共同相続人同志がそれ以上分割を積極的に求めない場合にはそのような共有の形態と定めるのが相当である。

本件において、前敍各証拠を総合すると、申立人と相手方等とが対立し、相手方等は取得すべき遺産につき内部的に現実の分割を欲していないことが認められる。それ故、申立人に対して分割し残余について相手方等の共有と定めるのが相当である。

(ニ) 被相続人治男の遺産を現物分割することにより互に農業経営がさらに困難となることは明らかであるが、双方の経済状態、申立人の切実な希望(申立人は他に勤めているが分割を得ればその田を耕作し生計の一助としたい意思であることが申立人審問の結果から認められる)その他諸般の事情を考慮すると、本件では現物分割をするのが相当である。

(ホ) それ故、申立人に対しては、別紙目録一(ニ)の田五畝を分割すべく、同人の計算上の取得額一、二五九、七六六円と右田の評価額一、二〇〇、〇〇〇円との差額五九、七六六円は、前叙の申立人が相手方等に対して負担すべき債務金六八、三三三円の対等額と相殺し、さらに、その債務残額(六八、三三三円から五九、七六六円を差引いた額)八、五六七円は申立人が相手方両名に対し現実に支払うことを要する。

残余の不動産はすべて相手方等両名の共有と定め、その持分は、各不動産につき、別紙目録一の認定取得計算額のとおり相手方つるこは()内の特有財産との合計額とした場合、相手方忠子は取得計算額のとおり相手方つるこは()内の特有財産との合計額とした場合、相手方忠子は取得計算額のとおりの割合によるものと定めるのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高水積夫)

目録

一、積極財産 ( )は特有財産(単位円)

所在地、種類、数量

認定評価額

認定取得計算額

幸子

つるこ

忠子

(イ)

尼崎市潮江字前田○番地の○

宅地六六坪一合二勺

一、六五三、〇〇〇

三六七、三三三

三六七、三三三

(五五一、〇〇〇)

三六七、三三三

(ロ)

同市○番地上

木造瓦葺平家建居宅

建坪一五坪二合五勺

二二八、七五〇

五〇、八三三

五〇、八三三

(七六、二五〇)

五〇、八三三

(ハ)

尼崎市潮江字上佃○番

田九畝一五歩

二、二八〇、〇〇〇

三八〇、〇〇〇

三八〇、〇〇〇

(一、一四〇、〇〇〇)

三八〇、〇〇〇

(ニ)

尼崎市潮江字上佃○番

田五畝

一、二〇〇、〇〇〇

二〇〇、〇〇〇

( )

(六〇〇、〇〇〇)

二〇〇、〇〇〇

(ホ)

尼崎市東ソオ不○番

田一反二七歩

但し賃借権。

賃貸人松井三男

一、五六九、六〇〇

二六一、六〇〇

(七八四、八〇〇)

二六一、六〇〇

合計

六、九三一、三五〇

一、二五九、七六六

一、二五九、七六六

(三、一五二、〇五〇)

一、二五九、七六六

(但し、不足二円)

二、消極財産

債権者名

相手方等主張額

認定

原因

金額

中山太郎

二〇〇、〇〇〇

川井又三

一〇〇、〇〇〇

小山京助

二、〇〇〇、〇〇〇

昭和三一-三二年頃借受

(七五、〇〇〇、五〇、〇〇〇、三〇、〇〇〇円)

一五五、〇〇〇

山田一郎

三〇〇、〇〇〇

昭和二五年頃借受

五、〇〇〇

○○○質店

一〇〇、〇〇〇

合計

二〇五、〇〇〇

各人の相続債務(合計の三分の一) 六八、三三三円

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